ドビュッシー チェロとピアノのためのソナタ

コンメディア・デッラルテ(Commedia dell’arte)。イタリア北部で16世紀中頃に生まれた、マスク(仮面)を使用する即興演劇。

起源は、古代ローマの、やはり即興演技による風刺喜劇だった、「アテルラナ」ではないかと言われている。

カトリック教会が演劇を禁止していた500年の間に、アテルラナも歴史の表舞台から消えてしまうが、旅まわり芸人によって受け継がれ、民衆の中で上演されていくうちに洗練されて行き、ルネサンス以降に「コンメディア・デッラルテ」として現れたとも考えられている。

「コンメディア・デッラルテ」には幾つかのストックキャラクターがあり、それぞれ特有の名前を持ち、性格や服装、演技スタイルなどに類型的な特徴がある。好色、臆病者、ペテン師、博士、召使い、農民、金貸し、などなど。変わったところでは、3つの甲状腺腫を持つ、というのが特徴のジョッピーノ、というストックキャラクターもいるけれど、どうしてだろう。

さておき、赤、緑、青のまだら模様の服を着た、いわゆる「ピエロ」のキャラクターはストックキャラクターの一人、「アルルカン」を基にしているが、ヴァトー、ロートレック、ピカソらの絵画、ヴェルヴェーヌの詩、チャップリンの「ライムライト」等、ピエロは芸術におけるインスピレーションの宝庫となる。

音楽においては、シューマンの「謝肉祭」、ストラヴィンスキーの「ペトリューシカ」も知られているけれど、その中でコンメディア・デッラルテの影響、特にトリックスターのイメージに取り憑かれていたのが、ドビュッシー。

ドビュッシーは、既存の形式やアカデミスムに背を向け、晩年に独自の世界を築いたが、最晩年、デュラン社からの依頼で「6つの、様々な楽器編成によるソナタ」を書く予定だったが3曲を書いたのみで世を去ってしまった。その3曲目、つまり、最後の作品がチェロソナタであり、そのチェロソナタの冒頭に表記されているのが、”Pierrot fâché avec la lune”、「月に憑かれたピエロ」。最後に残した傑作がコンメディア・デッラルテの「月に憑かれたピエロ」にインスピレーションを得たものであり、ストックキャラクター的な空想上の物語が散りばめられているように感じ、いろいろと自分なりに物語を作るのも楽しい。

https://www.youtube.com/watch?v=lrArtpyh6dc